私たちの究極のゴールは、最先端光技術・情報技術の創出を通じて生命科学に革命的な進展をもたらすことです。
三上はこれまでに光物理・光工学を軸に産業界・アカデミアの両方でさまざまな分野を渡り歩いてきました。研究のキーワードおよび興味の中心は「光」「情報」「生命」で、研究室名もこれらをつなげた「光情報生命科学研究分野」と名付けました。光技術と情報技術を融合した新技術を創出して生命科学の新たな展開を生み出し、さらに産業界での経験を活かして研究成果の実用化・事業化を通じた社会還元も目指しています。研究活動を通じて、当研究室を中心としたアカデミア・産業界にまたがる新たな潮流を生み出していきます。
研究室の4つの方針
研究トピック
下記以外にも複数のプロジェクトが進行中です。
超高速3D蛍光顕微鏡技術と応用展開
3D蛍光顕微鏡として世界最速の最大1,000ボリューム/秒 で撮像可能な技術で、現在も更なる性能向上に向けたアップグレード中です。速い動きを伴う生体試料の観察のほか、近年注目されている膜電位イメージングなど、様々な応用が期待されます。実際、技術開発にとどまらず、共同研究による応用展開を進めています。多くの生命科学分野の研究者に利用いただくため、先端バイオイメージング支援プラットフォーム(ABiS)による共同利用体制も作っています。
超高速多光子イメージイング・光操作
多光子励起を用いたイメージングや光操作は生体深部へのアクセスが可能なだけでなく、3D空間で局在した細胞等のターゲットを選択的に「狙い撃ち」することが可能です。このような特性を最大限に引き出す超高速多光子イメージング・光操作技術の開発に取り組んでいます。
深層学習による蛍光顕微鏡撮像の高速化
深層学習により画像の高解像度化や高感度化が可能であることは良く知られています。我々は、蛍光顕微鏡の撮像速度の高速化に伴い解像度・撮像感度が低下するのを深層学習により補い、より画像の質を担保したままより高速に蛍光顕微鏡撮像を行う技術の開発を行っています。既存のネットワークの流用にとどまらず、目的に応じて独自のネットワークを開発しています。
光技術・情報技術の融合による新概念技術の創出
我々の技術開発の目標は光技術と情報技術を個別に極めることではなく、両者の技術の融合により従来の概念を覆す新しい技術を創出することです。そのような技術の実現に向けて動き始めています。乞うご期待!
過去の研究
当研究室設立以前には、バイオイメージング(高速蛍光顕微鏡、多光子顕微鏡、CARS顕微鏡)のほか、非常に様々な分野で研究を行ってきました。これらの研究で得た技術や知識、ノウハウが現在も活かされてします。当研究室ではこれらの過去のプロジェクトにさらに磨きをかけたリバイバル版を行うことも計画しています。
超高速レーザー走査共焦点蛍光顕微鏡
生体試料の観察に欠かせないレーザー走査共焦点蛍光顕微鏡を、情報通信技術を応用して従来よりも圧倒的に高速化する技術を開発しました。周波数分割多重、直角位相振幅変調(QAM)など、通信業界でおなじみの技術をバイオイメージングに適用しました。撮像速度は発表当時世界最速の32,000フレーム/秒、104ボリューム/秒を達成しています。あまりに高速のため、蛍光寿命の測定も可能になりました。実用化に向けた小型実装も報告しています。関連特許を4件出願し、2件が成立済みです。
論文
Optica 5(2), 117-126 (2018). 蛍光寿命限界を突破した超高速共焦点蛍光顕微鏡。当時世界最速の16,000fps, 104vpsを達成
Cell 175(1), 266-276.e13 (2018). 画像活性細胞選抜法の報告
Nature Protocols 14, 2370–2415 (2019). 画像活性細胞選抜法のプロトコル論文
Optics Letters 44(3), 467-470 (2019). 小型実装
Optics Letters 45(8), 2339-2342 (2020). 励起ビームパターンの一般化によるさらなる性能向上(32,000 fps)
イメージングフローサイトメトリー
大量の細胞集団を短時間で解析するイメージングフローサイトメトリー法を開発してきました。上記の超高速レーザー走査共焦点蛍光顕微鏡の応用により世界最高のスループットでの蛍光撮像が可能であることを示したほか、超高感度・高スループットな手法であるVirtual-Freezing Fluorescence Imaging (VIFFI) フローサイトメトリー法を開発し、毎秒10,000細胞/秒のスループットで顕微鏡グレードの蛍光撮像ができるようになりました。本手法は感度・速度を極限まで高めたという点において世界最高性能のイメージングフローサイトメトリー法です。取得される画像をAIを用いて解析し、高精度な細胞種の分類など可能であることも示しました。
論文
Nature Communications 11, 1162 (2020). VIFFIフローサイトメトリー
Lab on a Chip 20, 2263-2273 (2020). VIFFIフローサイトメトリーの導入による画像活性細胞選抜法の大幅な性能向上
OSA Continuum 3(3), 430-440 (2020). 微小藻類の分類への応用
Optica 5(2) 117-126 (2018). 超高速共焦点顕微鏡を応用したイメージングフローサイトメトリー
Biomedical Optics Express 9(7), 3424-3433 (2018). ライトシート照明による高速化
Nature Protocols 13, 1603-1631 (2018). タイムストレッチ顕微鏡のプロトコル論文
Chem 4(10), 2278-2300 (2018). 高速イメージングによる1細胞解析のレビュー論文
in vivo 皮膚観察向け二光子/SHG顕微鏡@University of California, Irvine
皮膚の状態をin vivoでとらえ、将来の診断手法として期待されている二光子/SHG顕微鏡の高性能化に関する研究を行ってきました。レンズ光学系の徹底した設計により、皮膚観察に適した小型サイズで広視野(~0.8 mm × 0.8 mm)性能と高速性能(0.8フレーム/秒)を実現しました。関連特許1件が米国で成立済みです。
論文
Biomedical Optics Express 7(11), 4375-4387 (2016).
1細胞解析向けコヒーレントアンチストークスラマン顕微鏡 @日立製作所 中央研究所
生体から無標識で豊富な分子種の情報を取得するコヒーレントアンチストークスラマン(CARS)顕微鏡の実用化に向けた開発を行ってきました。従来は大型の光学テーブルを要したCARS顕微鏡の光源部分を手のひらサイズに実装することに成功し、実用化に道筋をつけました。また、大規模なCARS信号から高速に分子密度を定量する計算手法を数学的考察をもとに開発しました。関連特許3件が成立済みです。
論文
Optics Express 23(13), 17217 (2015).
Optics Express 23(4), 5300 (2015).
Optics Express 23(3), 2872 (2015).
コヒーレント光ディスク技術 @日立製作所 中央研究所
Blu-ray Disc以降の次世代大容量光ディスクの開発に向け、光通信分野から着想を得てコヒーレント光ディスク技術を開発してきました。当初はBlu-ray Discの記録層多層化にともなう再生信号S/N比低下の問題を解消するコヒーレント検出方式の実証を行い、その後コヒーレント検出方式を応用した新たな大容量・高速記録・再生方式(位相多値記録マイクロホログラム方式)の提案・実証を行いました。これらの技術を光通信デバイスに「逆輸入」する技術開発も行っていました。これら一連の研究で多数の特許を成立させました。
論文
Jpn. J. Appl. Phys. 52, 09LD02 (2013).
Jpn. J. Appl. Phys. 51, 08JD01 (2012).
Jpn. J. Appl. Phys. 51, 08JA01 (2012).
Jpn. J. Appl. Phys. 51, 08JE01 (2012).
Jpn. J. Appl. Phys. 51, 08JB01 (2012).
Jpn. J. Appl. Phys. 50, 09ME01 (2011).
Proc. SPIE 77301D (2010).
Proc. SPIE 77300E (2010).
Proc. SPIE 75050H (2009).
Jpn. J. Appl. Phys. 48, 03A017 (2009).
Jpn. J. Appl. Phys. 48, 03A014 (2009).
Proc. SPIE 662005 (2007).
量子光学・量子情報科学@東京大学
量子コンピューティングや量子情報通信の鍵となる「もつれ合い状態」にある光子の生成方法や、量子情報処理への方法を研究してきました。代表的な成果として、レーザー発振や超解像顕微鏡の原理としても知られる光の誘導放出を利用し、3光子もつれ合い状態の一種をそれまでの40倍以上の効率で生成する方法を提案・実証しました。また、4つの光子からなるもつれ合い状態を用いてremote state preparationと呼ばれる量子情報処理が可能であることを実験で実証しました。その他、さまざまな多光子もつれ合い状態の生成方法、量子テレクローニングと呼ばれる量子情報処理の実装方法などを提案しました。
論文
Phys. Rev. A 75, 022325 (2007).
Phys. Rev. Lett. 95, 150404 (2005).
Phys. Rev. A 72, 063801 (2005).
Phys. Rev. A 70, 052308 (2004).
研究内容
光を極限的に利用する
光を熟知し、自在に操れることが当研究室の最大の強みです。これは、三上が量子光学、光メモリ、光通信、ラマン分光、非線形光学顕微鏡、高速イメージングなどの様々な分野を渡り歩いて獲得したものです。この強みを極限まで尖らせ、光の持つ可能性を、生命科学という舞台で追究していきます。
情報を見極め、引き出す
私たちの研究は、生命から未知の情報を得るための活動です。このため、真に必要な情報が何であるかを見極め、個々の目的に沿ったスマートなデータ処理・解析技術と計測技術を創り、これまでアクセスできなかった生体の情報を引き出すことを可能にします。情報を抽出するという観点で、近年発展の著しいAI技術も非常に有用であり、積極的に取り込んでいきます。
生命の謎に光をあてる
私たちは独自開発した光情報技術(光計測技術、データ処理・解析技術を総称してこのように呼びます)を用いて、生命科学の様々な場面に残る謎を解き明かしていきます。このために、研究室内のみならず、外部の共同研究者との協働を積極的に行います。
実用的な技術を創る
当研究室で開発する技術は、常に実用化を念頭に置いています。技術屋目線で生み出されたアイデアも、実用的な観点からブラッシュアップし、誰かが使ってくれることを念頭に技術を世に送り出していきます。企業との共同開発やベンチャー企業の設立による事業化も狙い、特許出願も積極的に行います。